ファイヤーブライト菌(火傷病菌)で病気を引き起こすポジディブレギュレーター
PとかAとかの果物に感染する病原菌のお話です。
今年読んだ一番すきな論文
The RNA-binding protein CsrA plays a central role in positively regulating virulence factors in Erwinia amylovora
2016年11月15日にパブリッシュされた新しい論文です。
幸運なことにまだカレンダーに登録されていな日をみつけたため、論文のほんの一部ですが紹介します。
本ブロブが小さな子どもから大人まで読んでいただけるよう、できるだけわかりやすいように書けるよう努めます。
さて、ファイヤーブライト(Fire blight、火傷病)とはリンゴ(Apple)や、梨(Pear)に感染する伝染病です。感染した植物は、火で焼けたような症状がでることからこのような名前が付いています。
病原菌であるエルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、別名火傷病菌が風雨や虫などにより運ばれ、花や芽、葉などから侵入し、病気を引き起こします。
火傷病は、日本では発生していないそうですが、一度発症すると防除が難しく、海外では猛威を振るい、米国では損害と防除費用のために毎年1億ドル以上の被害が出ており、農家のみなさんにとっては深刻な問題となっています。(参考・参照:最重要病害リンゴ火傷病の日米検疫問題 )
Figure from http://www.nature.com/articles/srep37195
【方法】
火傷病菌の野生株(Ea1189)と、csrB遺伝子を欠損させた株(csrB欠損株)、csrAを欠損させた株(csrA欠損株)、csrBとcsrAのそれぞれの相補株を作り(csrB相補株)(csrA相補株)、梨(Pear)に感染させました。
そして感染後、4日後(4DPI)、7日後(7DPI)に写真で撮影し、症状を観察しました。
※野生株:遺伝子などをなにもいじっていない株。
【結果】
感染させると通常、植物で細菌などが感染したときに起こる過敏感反応によって起こる細胞死により黒く見えます。
※過敏感反応とは、植物が微生物による感染拡大を防ぐための機構のこと。
PBSでは菌を感染させてないので、もちろん無症状でした。
野生株、csrB欠損株では梨の実が黒くなって見え、細胞死が起こる過敏感反応が起きてました。
ところが、csrA欠損株では無症状でした。
そしてcsrA相補株とcsrB相補株では、野生株やcsrB欠損株と同じように細胞死が起きてました。
そこで、次に菌を感染させて細胞死が起こった場所に、起こらなかった場所に菌が存在するかを調べました。
Figure from http://www.nature.com/articles/srep37195
※横軸は時系列(日にち)。縦軸はコロニー形成単位。
【方法】
成熟していない梨の表面を滅菌し、2μLのバクテリア懸濁液を滅菌されている針を用いて植菌しました。植菌した周囲の細胞をコルクボーラーで切り取り、1mLの0.5xPBSでホモジナイズしました。
梨の細胞内部で生育したバクテリアは、適切な抗生物質の入ったLB培地に希釈プレーティングにより、植菌後1日後と2日後、3日後のものを観察しました。
感染4日後と7日後に写真を取りました。
【結果】
csrA欠損株以外の株の個体群では、植菌1日後で菌が増えてました。2日後、3日後では菌は植菌1日後で観察した以上に増えていました。
一方で、csrA欠損株の個体群は1日後で減少傾向でしたが、徐々に増加し、3日後で3.2 log CFU/g tissueになってました。(野生株と比較すると6.1 logの差がありました。)
※CFU;コロニー形成単位
つまり、csrA欠損株は病気を引き起こすことなく生存することが可能ということがわかりました。
その他の図では、病原性、バイオフィルム形成、バクテリアの生存に重要な役割を担っているエキソ多糖類アミロボラン(Amylovoran)の産生にCsrAがポジティブな役割を担っていることを証明し、
さらに病原物質を打ち込むニードル(針)構造(Ⅲ型分泌装置)を火傷病菌は持っていますが、そのマスターレギュレーターをポジティブに制御していることを証明していました。
※バイオフィルムとは、細菌が菌体の周囲分泌する粘液多糖により菌体の周囲を覆う膜状構造で、細菌が付着した結果カテーテルや心臓の人工弁などに作られることもあります。
病原性をポジティブに制御するタンパク質のお話ですが、
今後この Ⅲ型分泌装置とアミロボラン生合成をポジティブに制御するCsrAのターゲットがまだわかっていないので、今後の活躍に期待です。
(参考)
※CsrAはRNAに結合するタンパク質で、CsrA結合はリボソーム結合と競合することにより翻訳を抑制し、ターゲットのmRNAを不安定にします。
またCsrAは翻訳を活性化することができ、リボソーム結合を高める事により翻訳を活性化し、RNase E依存的な分解から転写物を保護することでターゲットのmRNAを安定にすることができます。
E. coliやP. aeruginosaにおいてもCsrAのポジティブ制御が報告されているので参考にしてみてください。
今日のイラスト:りんごトナカイ。